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ぼくは多々順一郎

やぁみんな。ぼくだよ。
突然だけどこの物語、ぼくに対するフォローがひどすぎると思うんだ。
みんなの中でのぼくのイメージといえば恐らくは、スラリとした長い足を持ち、笑顔がさわやかで素敵な好青年、だと思うけど、そういった描写が作中で少なすぎると思わないかい?
だから今回は、普段のぼくをみんなに見てもらいたいと思うんだ。
少しは格好のいいところを見せないとね。だから今回はギャグ無しだよ。
ではいってみようじゃないか。






*

まずは朝。神主の一日は掃除から始まるんだ。
よくほうきで境内を掃いているところを基祐くんと出くわすけど、朝の清掃以外にも、気分転換や落ち葉が散らかっているときなどもほうきを持って回るよ。
神社神職の基本は、なによりも先ずは境内の美化清掃、と言われるほど、掃除は大切だ。
境内を常に綺麗に保つことは、心や土地の浄化につながる。そして、浄化された美しいものにこそ山や土地の持つ神秘の力が宿るとされているからだ。
もちろん掃き掃除以外にも、拝殿の拭き掃除だとか水盤の手入れだとか痛ッ!
小石が飛んできたぞ。何事だ?

「物の怪が出たぞ、退治しろ!」
「てい!」「やあ!」
「痛っ、痛たたっ! きみたち止めなさい!」

人が解説してるというのに近所の子供たちが乱入してきたようだね。
ちなみに彼らはいつもつるんで行動している三人組で、凱くんと益男くんと大牙くん。ぼくは勝手に「小さな三連星」と呼んでいる。
ご覧の通りぼくは子供にも人気者で、静かに過ごそうと思っても向こうが放っておいてくれないんだ。スターはつらいね。
「よくも『百年前のお宝だ』なんて言って、ただのビー玉を売りつけてくれたな!」
「オマエの掘った落とし穴に落ちたじゃないか!」
「うちの姉ちゃんの尻触ったろ!」
「アブネッ! ちょっと、今の石は大きすぎるんじゃウギャァァ!」

こうして氏子との交流を深め、神道普及のために腐心するのも、神主としての務めというやつなのさ。

*

次は朝拝だ。これは一言でいうと朝のお参りで、どこの神社でもたいてい実施されるものなんだ。
我が鎌倉坂神社では、まず修祓(お祓い)。次に大祓詞(おおはらいことば)という祝詞の奏上、次に神社拝詞という祝詞を奏上し、それから明治天皇御製(明治天皇が作られた和歌)を二首、奉唱するんだ。
ちなみにぼくが好きな歌はこれ。

「目に見えぬ 神にむかひてはぢざるは 人の心の まことなりけり」

この句は、
「目に見えない神に向かって恥じることのない生き方は、その人の心が誠実であることを示している」
という意味なんだ。
つまり、誰かに見られようが見られまいが、恥じることのないような誠実な心を持つこと、を説いているわけだね。

「……多々さん、それはなんですか?」
「え? あぁ神瀬さん、おはようございます。今日は朝拝に参加ですか? それとも……」
「多々さんのポケットからのぞいているそれは何か、と聞いているのです」
「あぁ、これですか。見ての通り、靴下ですが」
「それはわたしの靴下なのですが……なぜあなたのポケットの中に?」
「おやおや、異なことをおっしゃる。そんなのは、ちょっと黙って拝借したからに決まっているではありませんか」
「なにをえばってるんですか! おととい多々さんが遊びに来てから、道理で見つからないと思ってたら……!」
「これをこうして鼻先に近づけると……すぅーっ……はぁー、まるで神通力がこのあたりに溜まってくるようなのですよ」
「どのあたりですか! まったくもう毎回毎回懲りもせず……恥を知りなさい!」
「恥? 恥ですと? ぼくは何も恥ずかしくありませんよ。生涯で一〇万以上の和歌を残した明治天皇もこう詠まれています。『目に見えぬ 神にむかひて……』」
「そういう意味じゃありませんッ!」

*

さて、朝拝が終わっても色々とすることはあるけど、今日は祈願祭を行うとしよう。
祈願祭っていうのは、お願いをしたい人から依頼を受けて行う、特別な祈祷のことだ。
みんなも、賽銭箱に小銭を入れて願い事をするよね。あれのグレードアップしたものだと思ってくれればわかりやすいかな。

「じゃあお願いします」
「うん。他ならぬ静ちゃんのための祈祷だ。精一杯やらせてもらうよ」

その依頼人というのは、今落葉ノ原でもっとも不幸な少女、鹿島静ちゃんだ。

「それで、玉串料は?」
「はい?」
「初穂料とも言うけど……要するに料金のことだよ」
「お金取るんですか!?」
「そりゃあぼくらだってかすみ食って生きてるわけじゃないからね。汚い話で申し訳ないけど、納める金額によって内容が変わってくるんだ。どれにする?」
「この中から選ぶんですか? 高っ……」
「うちは随分良心的な金額でやってるほうだけどね」
「無理です」
「はい?」
「払えませんこんなの。でもやってください」
「それこそ無理だよ……」
この子は時折、平気で無理難題を吹っ掛けてくるね。

「お値段については頑張らせていただくこともできるけど、タダだなんて特別扱いすることはできないよ」
「誰がタダって言いました?」
「え、違うの?」
「そりゃそうですよ。財布を拾ったらちゃんと交番に届ける人間ですよ、あたしは」
「中身だけ抜いて?」
「……」
「……」
「話を戻しましょう。やってほしい祈祷はこちらの……」
「ちょちょちょっ! 財布は中身ごと届けないとダメだよ!」
まさか本当なの!?

「お金はないけど、ちゃんと報酬は用意してます」
「報酬?」
「物々交換というのはどうですか? えーっと……」
静ちゃんは懐の中で手をもぞもぞ動かして、何かを探していた。
しかし物々交換とは。応じてあげたい気もするけれど、ぼくらの立場からすれば答えは決まっている。

「物々交換はダメだよ。本当に価値があるものかわからないし、ちゃんとお金でもらわないと収支の台帳にも──」
「あぁあった、これです」
差し出されたのは黒っぽい二本の棒状のもの。
見たところ、日常生活によく登場するアレのように見えた。

「なんだかお箸に似てるね」
「その通り、お箸です」
「ホントにお箸なのかい!」
合ってるとは思わなかった。
でも、なんでまた箸なんだろう。

「夜さんがいつも使ってるお箸なんですけど……物々交換はダメなんですね。仕方ないし今日は出直してきます」
「待ちたまえ」
立ち去ろうと背を向けた、その後姿に声をかける。

「仕方ない、きみとぼくの間柄だ。特別に引き受けようじゃないか」
「え、でもさっきは無理だって……」
「何事にも例外はあるものさ」
祈願祭の内容が書かれた表の、一番下の項目を指差しながら言う。

「この、一番基本的な祈祷でいいね?」
「……」
「な、なんだいその目は」
静ちゃんの視線は冷たく、まるで無機質な光を湛えていて──

「わかったよ、巫女舞もつけて、大祈願祭にしよう。これでどうだい?」
「多々さん、あなたは本当に物分りの悪い人ですね」
「なっ!?」
その言葉は、人を人とも思っていないほどの冷酷さを感じさせた。

「あなたはあたしと交渉できる立場ですか?」
「ど、どういうこと?」
「あたしはこんな棒切れどうでもいいんですよ。ポキッと折ってゴミ箱に捨てることも、燃やして灰を十字路に撒くこともできます」
「いかんそれだけは! 国益を損なうよ!」
「だったら、引き換えの条件を小出しにするような、みみっちぃマネは止めてください。二度は言いませんよ」
「わ、わかったよ……」
ぼくは休戦協定への調印ではなく、無条件降伏を迫られていたのか……。

「ではこの特別祈願祭で……」
「あん?」
「ま、間違えた! 特別大祈願祭だった! やります、やらせていただきます!」
ドスの聞いた声に、つい上ずった返事をしてしまう。人の心を恐怖に駆り立てる、確かな凄味が彼女にはあった。
ちなみに当社の祈願祭は、祈願祭、大祈願祭、特別祈願祭、特別大祈願祭の四つがあるんだけど……。
特別祈願祭以上は、本来なら要予約で、その場で受けるなんてことは特例にもほどがあると言える。
だがここは国益のためと割り切って、ハードだがやるしかない。

「いいでしょう。じゃあ前払いとして、一本だけ渡しておきますね」
「や、やった……!」
差し出された漆黒の箸に震える手を伸ばした。が、すんでのところで手は空を掴む。

「ただし、もし契約が守られなければ、もう一本の箸は鉛筆削りにかけられて削り節になり、多々さんの食卓に並ぶことになりますよ」
「夜ちゃんの箸の削り節……? それはそれで悪くないかも」
「う……ま、まぁいいから、さっさとその特別大祈願祭っていうのをやってください!」
「わかりました。死力を尽くしましょう」
よしよし、ようやくぼくらしくなってきたぞ。
悩める民衆の信頼を受けて、その解決のために神々の力を乞う。これぞ神職、神主、総理大臣!
これが本来の格好いいぼくというやつだよ!

──そして、方々に手を尽くして急きょ催した特別大祈願祭が終了した。

「どうだった? これが特別大祈願祭だけど」
「ううん、厳かだったっていうこと以外、結局よくわかりませんでした」
「そ、そう……」
せっかくがんばったんだから、もう少し多くのものを受け取って欲しかったけど……。

「とにかくお疲れ様です。これ、報酬の箸、もう一本です」
「フォッ!?」
きたきたきたぁ!
ついにそろった一対の箸。比喩に使われるほど軽いもののはずなのに、あまりの荘厳さから金塊のような重さを感じる。
これでぼくはもう無敵だ!

「順」
「え? あぁはい、なんですか?」
静ちゃんと入れ替わる形でやってきた女性が一人。巫女服を身にまとっている。
名前は葉(ヨウ)さんといい、ぼくのいとこだ。結婚していて、普段は落葉ノ原で唯一の喫茶店を経営している。
ちなみにぼくの名前は「多々順一郎」。みんなちゃんと覚えててくれたかな?

「急に特別大祈願祭だなんて驚いたけど、なんとかなったな」
「葉さんたちのおかげです。巫女舞も人数が必要ですからね」
特別大祈願祭の巫女舞は、当社では四人で行うことになっている。常駐している巫女さんは二人しかいないから、急きょ手伝いを頼んだというわけ。

「よし、じゃあこの後はみんな集めて一杯やるか。順のおごりでさ!」
「えぇ、なんでぼくのおごりなのさ!?」
「だって特別大祈願祭だろ。玉串料たんまりもらったんだし、ケチケチするなよ」
白い歯を見せながら、ぼくの背中を平手で叩く葉さん。

「さて、誰を呼ぶか。神瀬さんちも協力してくれたし、山入端さんも人手を集めてくれたからー……」
「ちょっと待って。おごりなんて無理だよ」
「なんで? そんなに経営厳しいのか?」
「そうじゃなくて、今日の報酬はこれだから」
「……なにこれ?」
「夜ちゃんが使った箸」
「……」
「……」
口笛でも吹きそうなくらい爽やかな表情で葉さんが近づいてくる。
どこから取り出したのか、その手にはバットが握られていた。

「待ちたまえ。まずは話し合おう」
「十六号も言ってるだろ。話し合いが無駄なやつもいるって」
「葉さん……なんて危険な人!」
「お前のコト言ってんだよ!」
「ヒィッ、せめて釘の生えてないバットにしてぇぇぇ!」
「逃げるんじゃねぇ!」
舞を披露した舞台の上で飛んだり跳ねたりする神主と巫女。
それはさぞ見る人の目を惹きつける光景だったに違いない。ぼくと彼女以外に誰もいないのが痛恨の極みだよ。

*

他にも色々仕事はあるけど、今日は特別大祈願祭に時間をとられてしまったし、また今度紹介するとしよう。
日も翳ってきたし、後は夕拝だ。
朝拝を世間一般の朝礼とするなら、夕拝は終礼といったところかな。
内容は朝礼とほぼ同じ。朝拝は神様に朝ごはんを捧げるけど、夕拝では食事は捧げない。
ここでも明治天皇御製を奉唱するので、ついでにもうひとつ紹介しようじゃないか。

とこしへに 民やすかれと 祈るなる わがよを守れ 伊勢の大神(おほかみ)

これは難しくいうと、こういう意味。
「とこしへに何時々々までも、我が治めて居る国民が安くあれかしと祈って居る
我が心を知ろしめして、わが世を守りたまへ、皇祖天照皇大神よ、の御意と拝す」
初代天皇にして日本国の祖たる天照大神に、この国と国民がいつまでも安らかに暮らせるように祈って詠まわれた歌だね。
この国と国民が安らかに。
国民が安らかに──

「どうか安らかに過ごさせて下さい、ヒッ!」
ゴウッというとてもそうとは思えないような風切り音がして、避け切れなかった髪の毛がぱらぱらと舞い落ちる。
かがんだ頭上の数センチ上を、ナタが掠めていたのだ。
磔にされている状況で、よくぞかわしたものだと自分で感心する。

「よくもウチの姉貴を可愛がってくれたな。アァン?」
ガラの悪い男が、刃物を舌でなめながらこちらを睨んでくる。
いつも思うけど、あれってベロが切れたりしないのかな。

「今日はたっぷりお礼させてもらうぜえ」
胃にまで響いてきそうな低音の声、ゆっくりとした歩調と喋り方、やくざチックでなかなか堂に入っているじゃないか。

「き、基祐くん。ぼくが何をしたっていうんだい……?」
「何って言われても、色々ありすぎて困るな。とりあえず、靴下と箸の窃盗でロイヤルストレートフラッシュ、死刑」
「ロイヤル──? それにしては計算が合わないギャア!?」
袈裟斬りに振り下ろされたナタは耳のすぐ横を通り抜け、皮膚が切れるのではないかと思わせるほど鋭い風圧が伝わってきた。

「かみさま、どうか、どうかぼくに安らかな暮らしを! ナンマンダブ、アーメン、アラーは偉大なり!」
「ドーマンセーマンくらい言えんのかオノレは!」
「ギエエエエエ!」
実際に神様が、ぼくに安らかな時間を与えてくれたのかどうかは、またの話ということで。

*

どうだったかな、ぼくの一日は。
仕事はちょっと大変かもしれないけど、人々の信頼と深い歴史を背負い、地域と信仰のために働くのはとてもすばらしいことなんだ。
ぼくは、そんな自分の仕事と生き様に誇りを持っているよ。

「と、おやおや、誰かな?」
もういい夜更けだというのに、チャイムを鳴らす人がいるとは。
いいでしょう。いついかなるときでも応じるのが、神と人々に仕える奉仕者というものです。

「はい、どちら様──」
「邪魔するよ」
体格のいい自治会長さんが、肩を揺らしながら玄関をくぐってきた。

「こんな時間にどうなされました?」
「先日、きみに貸した金があったろう? あれを返してもらおうと思ってね」
「お金……? すみません、記憶に無いのですが、いつのお話ですか?」
「神瀬さんの家で話し合いをした帰りだ。確かにきみに二〇〇円を貸しつけたぞ」
「二〇〇円……あぁ、そう言えばそんなことも。でもあれは、あの後お返ししましたよ?」
「いや、まだ返してもらっていない。早めの返済を頼む」
「そんな。確かに返しましたよ、ぼくは」
「返済を証明するものはあるのかね?」
「そんなものはありませんが……じゃあお金を借りたことを証明するものはあるんですか?」
「あるとも。この録音機だ」
「……いや、でもぼくは確かに返しました。余計にお金を払うのはゴメンですよ」
「困るな。きみはいつもそうじゃないか。その前の一五〇円だって、結局ウヤムヤになってしまったではないか」
「過去の話まで持ち出さないでいただきたい。では会長、先日寿食堂で一緒に食事をしたとき、ぼくのカツカレーのカツを食べたいといってひとつ持っていきましたね? あの代金をもらっていませんよ」
「それこそ過去の話ではないかね」
「会長が言い出したことじゃありませんか。それに、ぼくの朱肉を使ってハンコを押したこともありましたね。朱肉代を請求するのを忘れていました」
「……」
「まだありますよ。一昨日使った風呂のガス代に、貸した懐中電灯の電池代、それにその前の――」

寛大な心を持って住民に接するぼくの元には、自然と人が集まるようになっている。それを証明するにはもう十分だね。
今回紹介した事柄はほんの一部だけど、ぼくという人物の誠実さ、器量、行動力がわかっていただけたと思う。
ではみんなも、困ったことがあったらどんどんぼく、多々順一郎に言ってくれたまえ。
いつも皆様のもとに、鎌倉坂神社をどうぞよろしく!
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  1. 2013/03/22(金) 01:02:15|
  2. SS(落葉の夏・B面)
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