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ユキチユウウツ その二

タクシー用の無線に語りかける。

「静は現在、霧島邸の横を通行中。五〇ヤード先の曲がり角で待機せよ」
「了解」
砂を擦ったような音と共に通信が切れる。
今、諭吉が身構えているのは、落葉ノ原で一番大きなお宅の壁沿い。
この壁の角に隠れていれば、静側からは絶対に見えない。絶好のチャンスだ。
何も知らない静と、待ち構える諭吉の距離が近づいていく。
これは上手くいきそうだ。


「兄貴、そろそろか?」
「もう少しだ。推定邂逅時刻は今より十秒後」
気づかれないようにかなりの高空から監視しているため正確にはわからないが、大体そんなところか。
それにしても静のやつ、移動速度が妙に速いように思える。
もしかして……。

「時間だ、行くぜッ」
「ま、待て! もしかすると静は……!」
「ここまで来て後には引けねえ! といやぁっ!」
曲がり角から飛び出す諭吉。
その目が見た、鼻先に迫ってくる想い人の姿は……。

「じ、自転車……?」
「きゃあああ!?」

すりこぎで胡麻をするような音が無線越しに飛び込んできたのを最後に、諭吉との通信は途切れた。
この瞬間から、空タクは空救急車に早変わりすることとなった。

*

「さて、出会い頭作戦は鹿島さんが自転車に乗っていたため、単なる交通事故に終わってしまいました」
包帯を巻いた姿の諭吉を囲んで、次なる作戦を立案するべく集まる。

「でも、怪我人の介抱にかこつけて仲良くできなかったの?」
「あの子、血ぃ流してる俺なんか放っておいて兄貴に泣きすがってたぜ」
「泣きすがる? どうして?」
「『お友達に怪我させてごめんなさい』って」
「謝る相手が違うわね……」
諭吉と姉さんの視線が俺の顔に集中する。

「お、俺も言ったんだよ、諭吉に謝れって。だけど静が……」
「……まぁ過ぎたこととは仕方ないわね」
目を伏せてため息をつくと、姉さんはためらいがちに切り出した。

「しょうがない。多々さん、なにか良い案はないかしら?」
「……ふふ、ふふふ」
「な、なに?」
「ありますよ、とっておきのやつが!」
やっと口を開くことを許された男が、目をらんらんと輝かせながら立ち上がった。

「あまり期待しないでおきますが、どんな案でしょう」
「ぬふふ。まずですね、ぼくは自分で言うのもなんですが……」
もったいぶった物言いに、多々さんは注目を浴びる。

「ぼくは、あまり静ちゃんから好かれていないらしいですね」
「そのようですね」
「少しは否定したり驚いたりしてくださいよ!」
が、あまり姉さんの反応がそっけなかったので、背筋ごと大きくのけぞった。

「実際彼女は、ぼくが半径一〇〇ヤード以内に入ると、離れようとして移動を開始するようです」
「一〇〇ヤードって……広いのね」
「本当だよ。ぼくはシュールストレミングじゃないんだから」
取り扱いに注意が必要という点では同じだが。

「そこで、今日の本来の目的に立ち返ってみようじゃないか」
「というと?」
「本来の目的、それは、静ちゃんにより良い環境に身を置いてもらい、かつ基祐くんから手を引いてもらうということです」
「その通りね」
「これを叶えるために共通していることがありますね。すなわち、彼女がこの家を出るということです」
「確かに。異論はありませんが」
「つ・ま・り!」
「な、なによ……」
多々さんの表情が輝きを増し、それを避けるように姉さんは多々さんとの距離を広く取る。

「神瀬さん、ぼくをもらってください」
「はい!?」
「婿になりますので、どうぞよろしく!」
「な、何を言うんですか、いきなり!」
「あぁ、確かに心配ですよね。でも婚礼の費用は当社で負担いたしますので、どうぞご心配なく」
「そんな心配してないわ!」
「わかりませんか? つまり……」
ほくほく顔で多々さんが言うには、つまりこういうことらしい。

「ぼくがこの家に居つけば、静ちゃんはそれを避けてここを出るでしょう。神社にもこれないし、となれば行く先は会長のお宅くらいです。そうすれば神瀬さんの目的も果たせるし、諭吉くんも静ちゃんといきなり同棲の大チャンス!」
「しかし問題があります。ぼくがここで暮らすということは、親の目も届かない家の中で年頃の男女が寝起きするということになりますよね。これはなにかと体裁が悪い」
「ならば我らが夫婦となり、余計な誤解を生まないようにすることが最善の手なのです!」
「最悪の手よ、そんなの!」
「不満かい? 神瀬さん。……いや、ここはもう、こう呼ばせていただきましょう。夜、すべてぼくに任せておけばいいよ……」
「いやぁっ! 名前で呼ばないで!」
「夫が妻を名で呼ぶことが不自然かい?」
「だから夫じゃありませんってば! ひぃぃ、こないで!」
「その辺にしとけって」
姉さんに新たなトラウマができてしまいそうなので、見かねて口を挟んだ。

「邪魔しないでおくれよ。義弟といえども夫婦間の問題には干渉しないでほしいなぁ」
「だから違うっての。妄想も大概にして、もっと他の案はないのか?」
「他の案かぁ……ないこともないけどね」
「だったら最初からそれを出しとけよ」
多々さんが座布団の上に再度腰を下ろすと、ようやく本題へと流れが向かっていく。

「たすけて……いやぁ、こないでぇ……!」
まだ恐怖から立ち直れない姉さんは、部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをしていた。

*

遮るもののない大地の下に屹立する、ひとりの男の姿があった。

「諭吉くん、畑の真ん中でなにしてるの?」
「あれが次なる作戦らしい」
ようやく立ち直った姉さんだが、恐怖に打ち勝つのがやっとで作戦を聞いている余裕がなかったようだ。

「そういうこと」
「ヒッ!?」
「諭吉くんには、彼の男らしい面を存分に発揮してもらうことにしたよ」
「そ、そうなの……?」
まだ多々さんを見ると、反射的に体が動いてしまうらしい。よく見ると膝も震えている。

「静ちゃんもお年頃だしね。男の子にだって興味はあるだろうし」
「それで、何をするつもりなんですか?」
「こうするんだよ」
言いながら多々さんが足元から持ち上げたのは、茶色い何か。

「クマの着ぐるみさ」
「は、はぁ」
「こいつを着て、静ちゃんが通りかかるタイミングを見計らって諭吉くんに襲い掛かるんだ」
猛獣と戦うワイルドな姿、飛び散り輝く汗、破れた服から覗くたくましい筋肉、それらが静の内なる「女」を刺激するのだと多々さんは言う。
まぁ言ってることは理解できなくもない、が。

「この着ぐるみ、くまのブゥさんじゃねえか」
ファンシーすぎるだろ。

「別のやつはないのか? もっと怖いやつ」
「あとは……もうこれしかないよ」
「……これは?」
「これもブゥ。ビビデバビデの」
「怒られるぞ……」
やけに桃色メインだと思ったら。

「仕方ないわね、わたしが用意するわ」
と、そこに服飾の本職、神瀬夜が口を挟んだ。

「仮装用のクマの衣装があるから、それでなんとかしましょう」

──かくして段取りは定まり、あとは静を待つばかり。

「ところで、誰がこれを着るんだい?」
さぁいよいよ、というところで多々さんが妙なことを言い出した。

「多々さんが着るんじゃねえの?」
「ぼくが? いやだよ、こんな炎天下の中着ぐるみなんて」
「……」
隣に立つ姉さんと目が合った。瞳を丸くして口を半開きにしているが、たぶん俺も同じ顔をしているのだろう。
当然多々さんが着るものと思い込んでいたからだ。まさかこちらにバトンが回ってくるとは。

「作戦指揮者はぼくだよ。さぁ基祐くん、行っておいで」
そうきたか。うまいこと言って難を逃れようとしているらしい。

クマの着ぐるみを持ち上げて、しげしげと眺めてみる。
厚みがあって毛羽立っていて密閉されていて、持っているだけで手のひらから全身が暑くなりそうである。
こんなものを着るのはなんとしても避けたいし、何より多々さんの口車に乗せられるということが許せない。
さて、どうしたものか。

「ほら、早く着てごらんよ。試着してみないとうまく動けないよ?」
「……姉さん、ちょっと着てみないか?」
「え、わ、わたし?」
急に話のバトンが渡ってきて、声を跳ねさせる姉さん。

「いやよ。こんなの着たら暑さでやられちゃうわ」
「頼むよ、一〇分だけでいいんだ」
「……どういうこと?」
「なに、ただの試着だよ。本番は俺が着るから、そこだけ手伝ってくれよ」
ゆっくりと諭すような口調で言うと、それならばとかすかに頷いてくれた。

──実際に着用してみてもらった。

「あづい……」
「どう? つっぱったりしないか?」
「結構余裕があるし、基祐が着ても問題なさそうだけど……とにかく暑いわ」
「そのままちょっと動いてみてくれよ」
「こう?」
質問を交えながら軽くアクションを混ぜてもらう。
辛そうだが、動き自体は軽快で衣装に問題がないことが見て取れる。

そして約束どおり一〇分後、確かに衣装を脱いでもらった。

「あぁ……少しの時間なのに、ほら見て、汗だくよ」
「うわ、こりゃすごい」
姉さんが襟を軽くまくって見せると、鎖骨のくぼみにたまった玉の汗が見えた。

「衣装もだいぶ汗臭くなったな」
「し、仕方ないでしょ。中は本当に暑いのよ」
それはわかってたことだが。

「さて、じゃあ本番行くか。今度こそ俺が着るよ」
汗まみれの姉さんから衣装を預かり、やれやれと袖を通そうした、その時。

「ちょっと待ちたまえ基祐くん」
多々さんから制止の声がかかった。

「着る前に、ちょっとその衣装を貸してくれないかい?」
「なんで?」
「理由はどうでもいいだろう。さぁ」
「嫌だね。せっかく汗まみれになって着る覚悟を決めたのに、多々さんに渡したら気が削がれちまうぜ」
「ぬぐ……」
何かと葛藤するようにうめき声を漏らす神主。あごの下にできたしわの深さが、その苦悶の深さを物語っている。

「わ、わかったよ! ぼくが着る、着るから、早くその衣装を貸してくれ!」
根負けしたように叫ぶと、俺の手元から衣装を掻っ攫っていった。
そして興奮冷めやらぬ表情で、開いたチャックから足を差し込んで衣装を身にまとった。

「……どういうこと?」
姉さんは、多々さんの態度の急変に気づいていないらしい。
勝手に姉さんを利用していささか申し訳ないとも思うが、衣装を着た多々さんを指差して、こういうことさと言ってやった。

「はあ、ふう、こ、この染み込んだ汗の臭い……た、たまらん! くんかくんか、きゅんきゅんきゅい!」
「ヒッ……!?」
身震いを抑えるように体を抱え込む姉さん。
姉さんから出た汁を利用しているわけだし、名実共に「出汁」だな。

──かくして、衣装の着用者も決まり段取りは全て整った。
そして、ちょうどいいタイミングで図書館帰りの静がこの決戦の地を通りかかる。

「よし、多々さん、行け!」
「おうともよ!」
合図と共に、草むらから飛び出した多々さんが、静へと襲い掛かる。

「きゃあ、く、くまだぁ!?」
お、いい反応だぞ静。ヒーローの登場のし甲斐ってものがあるじゃないか。

「待てぃ! けものはけものらしく山に帰りやがれ!」
お約束のご登場である。
まずはご挨拶代わりに飛び蹴りを見舞う諭吉。打ち合わせどおり、サイドロールでそれをかわす多々さん。

「きみ、逃げるんだ! 早く!」
「で、でもあなたは……?」
「俺のことはいい、急ぐんだ! トウッ!」
背後から襲い掛かるくまの一撃。すんでのところで飛び退いたものの、服だけは避け切れなかったようである。爪の鋭さを物語るように、三本の亀裂がシャツに走った。

「……」
静は少し離れた場所にいるものの、諭吉の戦いぶりを見守っている。
よし、もしかしたら本当に逃げてしまうかもと思っていたが、ここは乗り切った。静には自分のために戦っている少年を見捨てない程度の良心はあるらしい。

迫りくる太い腕、不吉に黒光りする爪、それを皮一枚のところで避けるたびに、諭吉の身は露になっていく。
静はそれをじっと見つめていたが、やがてカバンに手を突っ込み、中を探り出した。
そして取り出したのは、なんとカメラである。
野獣と危機一髪の激闘を繰り広げる、その勇姿を切り取って保存するかのように。静は何度も何度もシャッターを切っていた。

「よし、これはいいぞ! 静のやつ、かなり興味津々だぜ」
戦いもクライマックスに差し掛かってきた。静に見えないように、草むらから手信号で二人に合図を送る。
一番の見せ所、諭吉が大技を決めてフィニッシュだ。

「でええええい!」
「ちょちょっ、な、なにするんだい諭吉くん!? 予定と違うよ!」
「派手なのでいくぜ、ちょっと我慢してくれよな」
「ぎええええ!?」
諭吉は多々さんを担ぎ上げると、そのまま空高く放り投げた。それを追って自分も宙に舞い、空中で多々さんをしっかりと押さえ込み……。

「どむぅっ!」
押さえ込んだまま、更に回転を加えて首から地面に叩きつけた。なんとも形容しがたい多々さんの悲鳴である。
決まった。静は見とれていたのか、カメラを持ったまま唖然としている。

「無事だった?」
「え、えぇ……ありがとう」
「そうか、良かった。それじゃ」
「ま、待って!」
言葉少なに去ろうとするヒーローを呼び止める声。
かすかに首だけで振り向いたその横顔に、静はたずねる。

「あなたのお名前は……?」
「俺かい? 俺は……諭吉ってんだ」
それだけ告げると、今度こそ振り返らず立ち去る、その後ろ姿。
やがて見えなくなるまでその影を目で追っていた静は、ひとり呟いていた。

「諭吉……さん」

「ねぇ基祐、ちょっといい?」
「ん?」
「あのふたり、お互いのこと知ってるでしょ? この流れはなんなの?」
「知らん」
強いて言うなら、様式美というやつじゃないでしょうか。

*

戦いから数日が過ぎた。
いつもと変わらない日々のように思えるが、静の様子はどこか違っていた。

「はふぅ……」
縁側にたたずむ静の手に持たれているのは、どうやら写真のようだが。
それと空を交互に見つめ、時にため息を漏らす。なにやわ思い煩っているようだ。

「うーっす、兄貴」
そこへ山入端諭吉が訪れた。日も経ったことだし、俺が呼びつけたのだが。

「おお、ちょうどいいところに。あれ、見てみろよ」
「ん? あの子、なに見てるんだ?」
「こないだの写真だぜ。あれ見ちゃあため息ついてるんだ。脈は大有りだぜ」
「マ、マジか」
「よし、ちょっと行ってみようぜ」
「お、おう」
諭吉はゴクリと唾を嚥下すると、硬い面持ちで軽く頷いた。

「静、なに見てんだ?」
「あっ! き、基祐さん。なんでもないですよ~」
話しかけると、静は反射的な速度で持っているものを背中に隠した。

「写真か? なに撮ったんだ、俺にも見せてくれよ」
「ダ、ダメです、こればっかりは!」
「ケチなこと言うなよ。いいじゃんか」
「ダメダメ! 見せられません!」
背中を覗き込もうとするが、どうあっても見せる気はないらしい。自分の尻尾を食べようとするアホ犬のようにその場でぐるぐる回転する俺たち。

「絶対に見せませんからね!」
静ははっきりとした口調で言い切ると、いーっと口の端を吊り上げて歯を見せた。

「どれどれ?」
と、そこへ姉さんが背後から音もなく近づいて、ひょいと写真を取り上げた。

「あっ、だ、ダメッ!」
「なんだ、やっぱり諭吉くんの筋肉姿じゃ……」
「ダメですってばぁ!」
途中まで言いかけて、姉さんの口の動きが止まった。

「なにコレ」
「だ、だからダメって言ったのに……」
がっくりと崩れ落ちる静。前髪が顔に垂れかかって、表情を一層暗くしている。

「姉さん、なんなの?」
「見たほうが早いわ」
「どれ」
問題の写真を受け取る。
でもこれは、確かにやまのはきんにくんじゃあ……。

「……なんじゃこりゃ」
「これが俺?」
横から覗き込んだ諭吉にも、俺と同じタイミングで頭上に疑問符が点灯した。
体は確かに先日の格闘シーン、筋肉隆々の諭吉の姿なのだが。
顔の部分には、神瀬基祐こと俺の顔写真が貼ってあった。

「……コラってやつです」
力ない声が、座り込んだままの静からやっとのことで届いてきた。

「諭吉くんがいい体してたから、これはいい素材だと思って使ったんです!」
「……つまり俺は、兄貴のための出汁にされたってことか?」
「そうです。ごめんなさい」
もはや消え入りそうな声の静。
皆が集まっている神瀬家の居間には、団欒中にベッドシーンが流れたような空気が漂っていた。

*

「さて、かっこいい所を見せつけよう作戦は、鹿島さんのたくましい想像力によって失敗に終わってしまいました」
その場に居合わせた三人で会議が始まった。
ちなみに多々さんは、全身鞭打ちで欠席である。

「これですべての案が失敗に終わったわけですが、原因はなんだと考えますか? 基祐」
「原因ねえ……」
「俺はわかったぜ」
まだ何も回答していないのに、諭吉が素早く横から入り込んでくる。

「最初の作戦は、手紙の差出人を兄貴と勘違いされて失敗した。二番目の作戦は、轢かれた俺じゃなく何故か兄貴が謝られてた。最後の作戦は兄貴の体が目的になっちまった」
「な、なんだよ」
諭吉の視線が段々とげとげしくなっていく。

「つまり、兄貴がいなければ全部うまくいってたかもしれないんだ」
「う……」
故意ではないにせよ、確かに諭吉の言うことは否定できない。
しかし俺にだって言い分はある。

「俺は俺なりに、お前に協力してやってるんだぜ。それにあれは全部不可抗力だ」
「協力、か」
「そうだろ? 案も出したし車も出してやった。十分じゃないか」
「……じゃあ最後に、もうひとつだけ協力してくれよ」
「最後に? まぁ乗りかかった船だ、言ってみな」
このまま諭吉から変な恨みを買うのも避けたい、という思いもあり、机に肘をついて身を乗り出した。

「兄貴……俺と勝負してくれ!」
「はぁ!?」
「気づいたよ、兄貴が最大の障害なんだって。俺が考える俺のための作戦は、兄貴、アンタを越えることだ!」
「なんだそれ!」
「いくぞ、必殺『シルバーライトニングスフィア ~銀色の聖滅雷光~』!」
「なんちゅー技名だ……!」
ご大層な名前の回し蹴りを飛び退いて回避する。
格好良すぎて別の意味で肌が粟立ちそうだ。

「止めろって。そんなことしても誰も得しないぞ」
「これは男の意地の問題だぜ!」
「だとしても家の中で暴れるやつがあるか!」
続いて繰り出されるラリアットをしゃがんで避ける。諭吉は「紫電の断裂翼撃」とか叫んでいた。

「なんだかわからないけど大変なことになってますね」
「あら、鹿島さん」
そこへ静が帰宅し、埃の舞い上がる居間にやってきた。

「男の争いってやつよ」
「そうなんですか? ……でも基祐さんはあまり乗り気じゃないみたいですね」
「まぁ諭吉くんから仕掛けた戦だけど」
姉さんが解説すると、静はしばらくどたばた劇を眺めてから呟いた。

「子供の争いには付き合わない、やっぱり基祐さんは大人ですね。いいなぁ、こういう落ち着いたところも」
そしてその呟きは、畳をどかどか踏みしめている俺たちの耳にも届いた。

「チクショーッ! アルティメットストライク衝撃波!」
「待て、今のは俺のせいじゃない!」

色々試してみたものの、なかなか静の目線は他所へ向かないようだった。
彼女の寝起きする所も、しばらくはこの家のまま動くことはなさそうだ。

──そのことを歯噛みして悔しがったのは、そもそもの発起人の神瀬夜、そして夜を娶ろうとしていた多々さんである。
ちなみに諭吉は、「キスケミラクルビーチフルスーパーバリバリパンチ」でノしておいた。
こっちのほうが技名としても断然格好いいよな、うん。
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  1. 2013/01/29(火) 23:17:08|
  2. SS(落葉の夏・B面)
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