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大吟醸「洛陽」

――とある夜更け、神瀬家。

基祐「いっぺんわかめ酒飲んでみたいよなぁ、げへへ」
多々「まったくですなぁ、ぬへへ」
もう家人は全員寝たと思い、下世話な話に花を咲かせる二人。

夜「……」
しかしそれを聞いて揺れる影がひとつあったことを、二人は知らない。


――翌日。

近所のスーパーに夜はいた。小さな背丈で見上げているのは酒類のコーナーである。
しばらくその一帯を眺めたあと、ため息ひとつついて手近なところにいる店員に声をかけた。

夜「店員さん店員さん、わかめ酒ってどこかしら」
店員「ぶっ!」
店員の持っている割引シールが、もう少しで夜の額にはられるところだった。

店員「あの、うちはそういう店じゃあ……」
夜「置いてないの?」
店員「あるわけないでしょう」
夜「え、どういうこと?」
店員「それは、その……(説明しろってのか……?)」
しばらくあっちを見たりこっちを見たりしていた店員だが、そんな相手にしびれを切らしたのか、先に動いたのは夜だった。

夜「もういいわよ。失礼しちゃうわね」
店員「というか、あの、おせっかいかも知れませんけど……」
夜「……なに?」
店員「パパに言っておいたほうがいいよ。『変なモノ買わせないで』って」
夜「なっ!?」

ぱちぃぃぃん、と気持ちいいくらいの高音が店内に響いた。

店員「な、何するのお嬢ちゃん!」
夜「ふん!」
状況を把握できていない店員を尻目に、すでに夜はスーパーを後にしていた。

店長「どうしたんだい、新人くん」
店員「あ、店長。さっきあのお嬢ちゃんが、お酒が欲しいっていうから注意してあげたんです。そしたら……」
店長「あのって……ありゃ神瀬さんじゃないか! 駄目だよキミ、あの人はもうとっくに成人してるよ!」
店員「えええ!?」
店長「ううん、でも知らないと間違えるのも無理ないなぁ。お詫びに、後でわたしが神瀬さんの家まで届けておこう。何が欲しいって言ってたんだね?」
店員「そ、それが……」
店長「それが?」

店員「わかめ酒だそうです」
店長「……」

――スーパーで不当な扱いを受けた夜は、商店街に足を向けていた。
そもそもスーパーで買おうとしたのが間違いだったのだ。基祐も多々さんも飲んだことがなさそうだったし、きっと珍しい銘柄になのだろう。

夜「こんにちは」
酒屋夫人「あら神瀬さん、いらっしゃい」
餅は餅屋。酒なら酒屋だ。

夜「わかめ酒一本くださいな」
夫人「ぶっ!」
先ほどのスーパー店員と似たような反応を見せる夫人。

夫人「……ふぅ、危うく大吟醸『洛陽』を割るところだった」
夜「す、すみません、驚かせるつもりはなかったのですが」
夫人「そりゃ驚くって」
丁寧に瓶を棚に戻して、夫人は一安心という顔を見せた。大吟醸『洛陽』はなにせ一升で八〇〇〇円だ。
しかしそんな表情もつかの間、今度は眉をひそめて夜を見る。

夫人「夜ちゃん、知らないのかい?」
夜「え、なにをです?」
夫人「はぁぁ、こんな純真な子だというのに……」
ため息に続いて、原生林が宅地開発されていく様を見るような目になる夫人。

夫人「それ、誰に頼まれたんだい。まさか基祐くんかい」
夜「いえ、あの、昨日の晩に基祐と多々さんが『わかめ酒いっぺん飲んでみたい』と……」
夫人「これだから男は! まぁうちのトーチャンも昔はそうだったけどね」
夜「はぁ……?」
夫人「いいかい。わかめ酒っていうのはね――」

――帰り道、夜は悩んでいた。
まさかそんなものだったとは。そうとは知らず、各地でかいた恥を思い返すと……。

夜「~~~っ!」
死にたくなる夜だった。
右手にぶら下げているのは、酒屋で買った大吟醸『洛陽』。変なことを聞いたお詫びに、一升は無理だが三五〇ミリリットルの瓶を買わせてもらったのだ。
余談だが、もちろん『洛陽』は『落葉ノ原』とかけられている。この地で作られる、知る人ぞ知る地酒だ。

夜「でも困ったわね……」
基祐たちが飲みたいと言っていた酒は、種類ではなく飲み方だったわけだが。
夜を悩ませる原因は、ただ一つだ。

夜「……」
ペロリと袖をめくり、おもむろに自分の脇を見る。

夜「ない」
そこにあるのは、手など加えたこともないのに見事にツルツルな脇だった。

夜「くぅっ……! こんなところでもこの体の弊害が……!」
ここがこんな具合なのだから、他の場所も推して知るべし。
恥じらいとかそんなことはさておき、物理的に不可能なのだ。
というか、多々さんはともかく基祐が「やってほしい」というのなら、体を提供するのはやぶさかではない。
あ、でも刺身を盛るのはできるし、そっちで勘弁してもらうっていうのはどうだろう?

夜「って、問題はそこじゃないのよ」
そう、夜には実現不可能という壁が目の前に立ちはだかっているのだ。
これはもう、素直に諦めるしか……。

静「あ、夜さん。お買い物ですか?」
夜「鹿島さん……」
そこに現れたのは、程よく日焼けした落葉ノ原の異邦人だった。

静「それは……なぁんだ、お酒か。あたし飲めないしカンケーないですね」
静「でも確か、夜さんも飲めないんじゃ? 基祐さん用ですか」
夜「……」
気になった夜は、ビニール袋を指さす静の腕をつかんで袖をまくった。

静「な、なにするんですか! 見ないでください!」
そこには、夜と違って肌色以外の色が多少混じっていた。

夜「生えてる……」
静「しょ、しょうがないでしょ! 最近色々あって、そんなことしてる余裕なかったんだから!」
夜「羨ましい……」
静「う、うら……?」
恥ずべき行いを羨望のまなざしで見られ、不思議な気分に包まれる静。

夜「でも鹿島さんに頼むくらいなら、リーブ21512(りーぶにまんいっせんごひゃくじゅうに)に頼むわね」
静「は? え? な、なんです?」
夜「なんでもない。夕飯までには帰ってきてね」
静「あ、ちょっと、夜さーん!?」
とぼとぼと歩く夜の後ろ姿に、ひぐらしの鳴き声が重なった。夕陽が、夜の低い背丈を長く長く影に映し出している。

静「……なんだったんだろ」
静は自分の脇を確認してみた。年頃の女子にあるまじき醜態がそこにはあった。まるでごま塩のようだ。

静「夜さん、腋毛フェチ?」
夜が聞いたら指さされて否定されそうなことを、静はひとり想像していた。

――その晩、神瀬家。

基祐「で、実際見えるのか? 神通力でスカートの中とか」
多々「見えるわけないでしょ。見たいのは確かですけどね!」
基祐「わはは! 誰だよコイツのこと『神主』なんて言ったやつ! 出てこいよ、ぶっ殺してやるよ俺が!」
また二人はのんきに猥談を交わしながら酒を飲んでいた。

静「迷惑ですねぇ……」
夜「本当」
呆れ顔の静だが、夜の頭の中はそれどころではなかった。
どうしたら実現できるのか。本当に発毛実感コースの申し込みしか手はないのだろうか?

静「あたしもう寝ますね。うるさいけど、あの二人が寝るの待ってたら夜が明けちゃう」
口数の少ない夜を少し不審に思いながらも、静は早々に自室に引っ込んでいった。
――どうしたら。夜の思考は酒屋に行ったとき以来、そればかりだ。

夜「――」
やがて夜の考えはひとつの場所へと落ち着いていく。
自分でできないのであれば、これしかない。
意思を固めると、ちょうど用を足しに多々が席を立ったので、彼が廊下に出たところで声をかけた。

夜「多々さん、ちょっとお聞きしますが」
多々「はいはい、なんですかいぃ?」
すでに出来上がっているようで、気持ちのよさそうな声色で返事をする多々。

夜「基祐のこと好きですか?」
多々「基祐くん? そりゃあ好きですとも。ぼかぁ基祐くんになら掘られてもいいね、ぬはは!」
考えられないようなセクハラ発言をしておいて多々は高らかに笑った。
ちなみに夜には誰かと誰かをカップリング組ませて妄想する趣味はないので、華麗なスルー能力でそれをやり過ごした。

夜「本当に好きなの?」
多々「おうともよ。ぼくたちゃ死んでも兄弟ですぜ~」
夜「じゃあ協力してちょうだい! 墳ッ!」
夜の手刀が多々の首筋を一閃した。

多々「あだっ! なにすんだい夜ちゃん! ぼくには痛覚があるんだよ!」
夜「あれ、マンガみたいにはいかないものね……」
痛覚がないってどんな昆虫だ、と思いながら、夜は諦めて薬を嗅がせて多々を眠らせた。

多々「むぐ……ふがぁ……」
すぐにいびきをかき始めた多々を見下ろして、夜は目を細めた。

――しばらく経ったが、多々がトイレから帰ってくる気配がない。
一人酒も退屈だと、基祐が腰を浮かしかけたとき、隣室から声がかかった。

夜「基祐、ちょっと来てくれる?」
基祐「姉さん? なんだい」
スパッとふすまを開く基祐。そこに飛び込んできた景色は――

基祐「こ、これは――!」
夜「の、飲みたいって言ってたよね。いいのよ? 飲んで……」
基祐「ご、ごくり」
そこはまさに海底だった。まぁ実際にはわかめというよりひじきだが、とにかくそんな感じで波に揺れている。大量だ。いや、大漁か。

夜「好きにして……おかわりもたくさんあるから……」
言いながら、さっき買った大吟醸『洛陽』を注ぐ。波打ってつぎ足されるたびに踊る海底。豊かな漁場がそこにはあった。

基祐「いいのかい、本当に好きにして」
夜「あなたのものだもの……いいよ」
基祐「そ、それじゃあ遠慮無く……」
喉と鼻を鳴らして、淫らな漁場に近づく基祐。
そして。

――思い切り顔を近づけた、と思ったら足を振り上げて踵を股間に突き刺した。

「フンゴォォォ!」

絹を裂いたような、かと思いきや牛が便秘でふん張っているような声が漏れた。
よく見ると、死ぬ前のゴキブリのように悶えているのは夜ではなく、多々だった。

夜「ど、どうして……」
基祐「気づくに決まってんべな! どう見ても股に挟ませてモノ隠しただけだろ!」
多々の上半身は、布団にくるめられて埋められていた。どうやら夜は、多々にまたがっていかにも自分の下半身であるかのように偽装していたようだった。
またがっている部分は着物のすそを巧妙にまくし上げて隠していた。

夜「ちゃんとスネ毛も剃ったのに……!」
基祐「そういう問題か……?」
夜「見たくも触りたくもない多々さんのものを、対放射線スーツを着て便所バサミで触ったというのに……」
基祐「ここは原発か?」

夜「そこまで苦労しても飲んでくれないの!?」
基祐「飲めっていうのか!?」
苦労は買うが、死んでも飲まないというのが基祐の感想だった。

夜「ほら、わかめ酒」
基祐「知ってるよ」
夜「しかも大吟醸『洛陽』よ」
基祐「ほう、そいつぁいい酒じゃん」
夜「でしょう? だからほら」
基祐「男のモノで出来たヒレ酒を飲む趣味はない」
夜「ヒレ酒……確かにそっちのほうがしっくり来るわね」
基祐「だろ? なんなら姉さんが飲んでみな」
夜「同じ死なら、わたしは市中引き回しの上打ち首を選ぶわ」
基祐「つまりこれを飲むのは、最低の名誉と」
夜「基祐のなら……」
基祐「止してくれ……!」

基祐「……それより姉さん。多々さんの体、なんか青くなってきてないか?」
夜「本当。そろそろ死ぬのかしら?」
基祐「ひでぇ言われようだ。……で、頭はどこに?」
夜「布団にくるんであるわ。薬で寝てるから意識もないはずよ」
基祐「え……それって」
何かに気づいたのか、大急ぎで布団をほどく基祐。

基祐「ウワァァ!? 本当に息してないぞ!」
夜「まぁ大変……」
基祐「全然大変そうに見えねえぞ!? 人工呼吸してやれよ!」
夜「それならわたしは車輪轢きの刑を選ぶわ!」
基祐「つまり多々さんに口付けるのは最高の苦痛と」
夜「気付けなら、このカビハイターでいいんじゃない?」
基祐「人体に与えるものじゃないだろ」
夜「トイレ用洗剤と混ぜて与える?」
基祐「危険だよ!」
夜「だったら……!」
基祐「それも……!」
夜「――」
基祐「――」


――翌日、目を覚ました多々が語ったという。
「今回一番の被害者はぼくじゃない?」と。
また、結局夜はリーブ21967は訪れなかった。
しかしアデランスフォンテーヌで、ウィッグを頼んだらしいが、詳しいことは誰も知らない。

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  1. 2011/09/16(金) 01:47:00|
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