236プロダクション

サークル「E'」の236が運営するSSブログ。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

チーム「TPC」

ザッ、ザッと、細竹が石畳を擦る音。
これだけ至近距離なのに、その音を発生させている当人にすらかすかに聞こえる程度の音量。
この神社では、およそほとんどの音がセミの声に打ち負かされてしまう。よほど大きな音出ない限り。
ほうきを手にしている神主は、体内にこもった熱を放出させようと大きく息を吐いた――

基祐『なに詩人ぶってんだ』
多々『うわあっ!』

大げさに肩が揺れ、ほうきが地面を支点に円を描くように地に落ちた。乗せている意味があるのかないのかわからない烏帽子も、少し浮いたかもしれない。

多々『基祐くん、いたのかい』
基祐『ちょいと用があってな』
多々『用?』
基祐『忙しくなかったら付き合ってくれよ』
多々『わかった。ちょっと待ってて、着替えてくるから』

地面に転がっているほうきを拾い上げると、傾いた烏帽子を直しながら神主は空を見上げた。


多々『――にしても、今日は一段と暑いね。なにかスカっとできるようなことがあるといいんだけど』
基祐『だったらちょうどいいぜ』
多々『え、なに?』
基祐『いや。早くしてくれよ』

その言葉には、この先起こることのヒントが含まれているように思えた。しかし神主はあえてなにも言わずに、来訪者に背を向けた。

――そして、多々さんが私服に着替えるのを待って空タクに乗り込む。

基祐『こっからは軽い感じでいくな』
多々『は、なにが?』
基祐『いや、独り言』

というわけで、返す言葉を待たずにアクセルを踏む。回転数がパワーバンドに達するところで、適するギアに切り替えた。

多々『それで、どこに向かってるんだい』

ますます速度を上げて過ぎ去っていく景色を見ながら、多々さんが言う。

基祐『喫茶店』
多々『……それってもしかして、喫茶「二分ノ一」かい』
基祐『他にないしな』
多々『あそこに行くのは……ちょっと腰が引けるんだけど』
基祐『同感だが……他にないしな』

多々さんは何かを諦めたようにため息をつき、それきり口をつぐんだ。
俺も同調するように、あえて言葉を発することなく運転に意識を向けた。
まもなく高度を下げて、空タクが地面に落とす影が大きくなっていく。

車から降り、盗る人間もいないので鍵もかけずに店に入る。

基祐『ちわっす』
葉 『あら、お帰りなさい弟クン』
多々『……』
葉 『ちゃんと順一郎も連れてきたね。さ、奥に席に座りなさい』
基祐『ありがとさんです、葉さん』

軽く会釈をして、エプロン姿の女性の脇を通る。俺の後につく多々さんは、小便でも我慢してるかのようにそわそわしていた。
この人――名を葉さんというが――は、多々さんの親戚に当たる人で、落葉ノ原でただひとつの喫茶店を経営している。
いろいろあって、俺も多々さんもこの人がイマイチ得意ではないのだが、その話はまた別に機会にすることにしよう。

そして用意された席に着くと。

山入端『戻ってきたか』
多々『山入端会長?』

すでにコーヒーの湯気に鼻をくすぐらせていたのは、自治会長のおっさんだった。

山入端『それで、話というのは? 基祐くん』

多々さんが挨拶するのもそこそこに、山入端さんが切り出した。

多々『ちょっと。ぼく、まだなにも聞かされてないんだけど』
基祐『合わせて説明する。あんたらを集めたのは俺だしな』
多々『きみが?』
基祐『ああ。まぁ話っていうのは簡単なことなんだけど』

――そこへ葉さんが、頼んでもいないのにコーヒーを運んできた。
しかもホット。いくらアイスよりおすすめだからって、夏場にこの湯気を見せつけるのはどうかと思う。

基祐『前々から考えてたことなんだけどな』
多々『うん』
山入端『早く話しなさい』
基祐『俺達でモトクロスチームつくろうぜ』
多々『モトクロスぅ?』
基祐『大手国内メーカーの各車両で構成するんだ。ちょうどぴったりハマるし、面白くないか?』
山入端『……』
基祐『揃えたらきっと壮観だぜ。赤、青、黄、緑が並んで。こんなチームはあんまりないだろうし』
多々『ちょ、ちょっ! それ、ぼくも含まれてるの?』
基祐『決まってんじゃん』
多々『そんなの無理だって! 一応二輪の免許持ってるけど、中型どまりだし、第一ペーパーもいいとこだよ』
基祐『どうにかなるって』
多々『あのねぇ……!』
多々さんは心配を具現化したような顔色をしていたが、山入端さんのほうを見てみると。
基祐『どうだい、おっさん』
山入端『わたしでいいのか?』
基祐『昔は国際B級のライセンス持ってたんだろ?』
山入端『過去の話だぞ』
基祐『平気平気。そこにペーパーがいるくらいだから』
多々『ちょっと!』
山入端『ふむ……』

イエスともノーとも取れる表情で、山入端さんは腕を組んだ。

多々『だから、ちょっと待ってってば』
基祐『嫌か?』
多々『そういう問題じゃなくて……第一』

テーブルを挟んだ全員を見渡し、多々さんは順番に言う。

多々『国内メーカーの各車両って言ったよね。だとすると、どういう分配?』

なるほど、当然の疑問だ。
その質問に対する答えくらいは用意してあったので、流れのままに答える。

基祐『そうさな。まずは山入端さんがホンダだ』
多々『ということは、赤?』
基祐『そうなるな。CRF、いいじゃないか』
山入端『……きみたち覚えているか? わたしは一応「YAMAnoHAモーター」の経営者なんだが』
基祐『もちろんわかってるさ。でもイメージ的におっさんは王道だし、実際店もヤマハを全面にプッシュしてるわけじゃないじゃん』

ということで、山入端さんがイメージカラー赤のHONDA、CRFで。

基祐『で、俺がヤマハだ』
多々『ふむ。まぁ、なんというか山入端さんがホンダな以上、そうなるよね』
基祐『ま、YZでだな。あえてWRのFっていうのも面白いが、せっかくだからエンデューロは別の機会に。もちろんカラーは青だ』
多々『なるほど。じゃあぼくは……』
山入端『スズキか』
基祐『スズキだな』
多々『なんでハモるの!?』
基祐『だって変態にふさわしいだろ』
多々『それはよろこんでいいのかよくないのか……』

SUZUKIに対する「変態」という言葉は、ある側面では褒め言葉と取られないこともないのだ。

多々『別に不満はないけど……なにか腑に落ちないなぁ』
基祐『つーことでRMZな。当然の黄色』
多々『……それで?』
基祐『ん?』
多々『これで赤、青、黄が揃ったけど、緑は?』
基祐『あぁ、それなら心配すんな』

想定していた疑問に、鷹揚に頷いたところ。

葉 『いらっしゃい』

木枠のガラス戸が小さくきしみ、革靴の足あとがそれに続いた。

諭吉『ちぃ~っす』
基祐『おう、こっちだこっち』
諭吉『あ、ども』

俺の姿を見つけた学ランの少年は、夏だというのにポケットに手を突っ込んだまま店内を進み、

諭吉『ゲッ、父ちゃん……』
山入端『……』

自治会長のおっさんと目を合わせて、歩みを止めた。

多々『もしかして……諭吉くんがカワサキ?』
基祐『チンピラのこいつにはちょうどいいだろ』
多々『完全に族車のイメージで語ってるね、きみ……』
諭吉『は、なんの話?』

知らずに話題に巻き込まれた当人が、テーブルにつかないままこちらを見た。

山入端『駄目だ』
基祐『おっさん』
山入端『これを二輪に乗せることはできん』
基祐『なんで?』
山入端『知らんのか。三ない運動があるだろう』
基祐『あ、あぁ……そんなのあったっけ』
山入端『親として、規則を破るような行動は容認できん』
基祐『規則、ねぇ』
諭吉『だからなんのナシだってんだ。単車のことか?』

お察しのとおり、この時代錯誤な腰パンをしている少年は、山入端さんの息子だ。
名前は諭吉。
山入端さんの名前は重信という。だもんで、この二人を早慶親子なんて呼ぶ人も多い。
ワイシャツから透ける色柄のシャツ、ぺしゃんこのカバン、ゆるいズボンに偏平足を助長しそうな平たい革靴と、見た目から人柄が想像できるやつだ。

基祐『山入端さんの息子が、どうしてこんなに馬鹿丸出しに育ったのか。落葉ノ原の七不思議(実際は四つしかない)に数えられる出来事だ』
諭吉『キッさん、全部聞こえてんよ……』
基祐『おう、そりゃ良かったな』
諭吉『「悪かったな」だろ! アンタじゃなかったら殴ってるぜ』

ここが路上だったら確実に唾を吐き捨ててる。そんな顔で諭吉がそっぽを向いた。

諭吉『……で、なんの用だよ。もしかして、俺にも単車買ってくれんのか』
基祐『まぁ、ある意味近いかな?』
諭吉『マジか!?』
山入端『ならんと言っとるだろう』
基祐『まぁまぁ、聞けよおっさん』

目を閉じたまま、話し合いが介入する隙間などなさそうなおっさんに語りかける。

基祐『三ない運動ってのは、公道だけの話しなんじゃねーの?』
山入端『……』

ちなみに「三ない運動」ってのは、確か、高校生にバイクの免許を取らせない、乗らせない、取らせないを定めた自主規制だったような。
なんだ、「取らせない」が二つあるって? もういっこは忘れたんだよ。

基祐『俺はモトクロスチームをつくろうって言ってんだぜ。コースは閉鎖空間の私有地。誰に文句を言われる筋合いもないだろ』
山入端『……』
基祐『理屈的には、俺は間違ってないと思うけど。どう?』
山入端『……』

初老の男性は動かない。
否定はできない。しかし肯定などできようもない。なら黙るしかないということか。

基祐『まぁ、決まりだな。諭吉、お前もチームに入れよ』
諭吉『えっ、イヤっすよ! 抜けるようとしたときに大金せしめるつもりだろ!』
基祐『ゾクとかじゃねーよ……』
諭吉『じゃあなんだよ。分担してカツアゲして回るんスか?』
基祐『チーマーでもねぇよ! モトクロスチームだ』
諭吉『モトクロスって……あの泥まみれのやつ?』
基祐『そう。喜べ、お前にはカワサキ車を割り当ててやるよ』
諭吉『ええっ! 三段シートのゼファーとか乗らしてくれんのか!?』
基祐『ゾクじゃねーっつってんだろ! オフ車に決まってんだろが!』

そういうパラリラいうバイクは、大分昔に卒業したんだ。

多々『それじゃ、彼がKXってこと?』
基祐『そうだな。これで四色揃ったわけだ。車両は山入端さんに借りるってことで』
山入端『……』
諭吉『なんかよくわかんねーけど、オヤジに殴られず単車に乗れるならなんでもいいや』

多々『なんかまとまりのないチームだね……』
基祐『いいじゃん。じゃ、明日支度を整えて神社に集合だ』
多々『神社って、ぼくのところ? なんでさ』
基祐『あそこ、私有地だろ?』
多々『まぁ、うん。ぼくんちだし』
基祐『広いだろ?』
多々『裏山まで含めれば……それなりに』
基祐『超絶オフロードだろ?』
多々『というか、ただの山だけど』
基祐『練習するしかないだろ!』
多々『えぇっ!?』
基祐『ちなみに大会は来週だ。時間はないぜ!』
多々『えぇぇっ!?』

――ということで、その場はさっさと解散し、各々の支度を整え。

基祐『赤、青、黄、緑っと……全員いるな』
多々『色じゃなくて顔で確認してよ……』

全員揃ったところで、キックスタートでエンジンをかける。
2ストロークの甲高い音が、山から山へと響き渡る。四台揃うとかなりやかましい。

基祐『というわけで、まぁ今日は軽く林道ツーリングっぽい感じで。なるべく早くゴールまで行こう』
多々『大丈夫かな……』
山入端『……』
諭吉『マジたりーんすけど』

それぞれが異なる面持ちで、車両にまたがり、ペダルを踏んだ。

基祐『では出発!』

俺の掛け声と共に、先頭の山入端さんを皮切りに、一台ずつ林の中へと姿を消していく。
三台目の多々さんが、おっかなびっくりアクセルを回しながら悪路を走っていくのを見届けて、俺もヘルメットにゴーグルをかけた。
ガシャッというギアを噛む音。上がっていくエンジンの回転数。それらを耳で感じ。

基祐『よし、俺も行くか』

先発の上げた土煙を追うべく、おもいっきりフロントアップさせながら発進した――
スポンサーサイト
  1. 2011/07/16(土) 00:16:49|
  2. SS(落葉の夏・B面)
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

コメント

<%template_post\comment>


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://sss236k.blog27.fc2.com/tb.php/26-a5af522d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。